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八、黒い重油

八、黒い重油

 大和が沈んだ海域には、黒い重油が約五厘くらい浮んでその中を皆真っ黒
くなって海豚の様に泳いでいた。内火艇を下し次ぎ次ぎに救助する。いま空
襲にあったら、文字通り一人も生き残る者はいない。舷側には縄梯子をかけ
甲板に引き上げる。中にはかろうじて縄梯子に手がとどいたかと思うと、力
尽きて目の前で沈み、遂に浮上しないものが幾人もいた。重油の中を泳いだ
のだから、皆眼をやられ、軍医の私は洗眼してやるのに大童わ。痩身の坊主
頭で相当年配の者が頭を縦に負傷していた。重油のため階級章もよく判らな
い。後に、この方が大和副長能村大佐であると分かった。

 四月七日とはいえ海の中はまだ冷たい。私室のベッドに、大和の副長と砲
術長を収容して私のシャツを着てもらった。私は血潮滴る負傷者を次々と、
夜を徹して士官室および後部治療室で治療した。


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